• 2020/08/11
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元劇団四季俳優が語る演劇の世界と、舞台を目指す10代が今すべきこと

日本を代表する舞台芸術の一つ、劇団四季。
毎年多くの人たちが劇団四季の舞台に立つことを夢見てオーディションを受けています。

元劇団四季の俳優であり、現在JAM音楽教室でボーカル講師を務めている礒辺愛奈さんは、劇団四季に入るための特別な勉強はしなかったそう。

超難関と言われる劇団四季に入るまでの道のりや、舞台を目指す子どもたちに今やっておいてほしいことについて、元四季俳優とボーカル講師の両方の立場からお話していただきました。

四季のオーディションのために特別に勉強したわけではない

ー2009年の劇団四季のオーディション動画がYouTubeに上がっているんですが、見ているだけでこっちがお腹痛くなるほどの緊張感ですね(笑)。

「あはは、そうですね。どのオーディションでもそうだと思うんですけど、やっぱりオーディションは独特の緊張感がありますよね。私は2008年にオーディションを受けて2009年に入団しているので、私の次の年のオーディションになりますね。」

ーオーディションの部門は5つあるそうですね。礒辺さんはどのコースを受けられたんですか?

「私は音大に通っていたので、ヴォーカルクラシックで受けました。ヴォーカルクラシックの他にヴォーカルポピュラー、ダンスがクラシックバレエとジャズダンス、あとは演技の5つのコースがありますね。あと、研究生といって勉強してからデビューするコースと即戦力として入る一般コースがあって、私はその研究生のコースに入りました。」

ー礒辺さんはどのくらい前からオーディションのための勉強を始めたんですか?

「私ははっきり言うと、四季のための勉強はあまりしてなくて。というのも、もともと宝塚受験をしていて、そのためにバレエとか歌とかをずっとやっていたんです。まあ結局宝塚はだめだったんですけど、舞台に立ちたいなとは思っていて。でも宝塚のためのことしかやってきていないから、歌が好きだというのもあって、歌を一度ちゃんと勉強しようと思って音大に入りました。

四季のことについて詳しかったわけでもなくて、毎年オーディションがあるということすら知らないくらいでした。2008年のときに四季が創立55周年で、その記念オーディションをやっていることを知って、ちょっと受けてみたいなと思って受けました。なので本当に四季のオーディションのために特別な勉強をしたわけではないんです。今思えば、変に気負わずに『なんかやってみよう』と受けたのが逆に良かったのかなと思っているんですけどね。宝塚受験でいろいろなことをやってきたという自信や根性はついていたし、あとは歌も音大でちょっと勉強していたのでそこも多少自信がついていたのかなと思うんですけど、楽しく受けられたのが大きかったと思います。」

ー試験はまず書類審査からですよね。

「まず書類で、歌と何でも良いからセリフを喋ったものを送ってくださいというのがありますね。そこから一次試験があって、今は課題曲があるみたいなんですけど当時は好きな曲をワンフレーズくらい歌って終わりでした。二次試験のときはもうすこし長く歌いましたね。」

ーその書類審査用のセリフ選びをみんな迷うという話を聞いたことがあります。

「そうなんですよ。今でこそ四季がDVDとか出していてそれを見て覚えてという人も多いと思うんですけど、当時はなかったので、私はそのとき読んでいた『嵐が丘』という小説の中のセリフを読みました。私の同期のバレリーナの子は相田みつをの詩を読んだと言ってました(笑)。」

ー審査員は何名くらいいらっしゃるんですか?

「たしか私のときには浅利先生がいて、あとは10人くらいですかね。俳優さんのトップの方とか、あとは音楽部というのがあるんですが、その音楽部さんがいたりとか。ダンスのときには劇団のダンスの講師の方やダンスの上手な俳優さんとかいらっしゃいました。発表する人の後ろに2列くらい待機している受験者がいて、流れ作業みたいな感じで…(笑)。控え室も、ダンスの人は鏡の前で踊っていて、歌の人もみんな発声していて、どんどん緊張が増していくような感じでしたね。」

やっぱり四季は作品ファーストなんです


ー先程オーディションにコースが5つあると聞きましたが、ボーカルで入ってもダンスの技術が必要になるんですよね?

「そうですね。特に私は研究生だったので、ダンスも全てレッスンがありました。でも、例えば即戦力としてヴォーカルクラシックで入った人なんかは、『オペラ座の怪人』とか『サウンド・オブ・ミュージック』とか、そんなに踊らない作品に配属されるということも多いですね。まあそれでも踊らなきゃいけない作品に入ったらとにかく頑張るしかないんですけど…(笑)。

バレリーナの人で歌が苦手という場合でも、やっぱり一芸に秀でた人は合格します。入ったらもちろん歌もやらなきゃいけないんですけど…。見ていて私が思ったのは、バレエダンサーの人たちはやっぱり基礎がしっかりしていて、丹田を張る癖がついているんです。それって歌にも通ずるんですよね。だから歌が飛躍的に上手くなる人が多いなと思いますし、掴んだら強いなと思います。」

ー入ってからもオーディションで役が決まっていくんですか?

「四季はそうですね。役のためのオーディションをしてます。四季はわりとやる作品が決まっているので、基本的にはやったことある人がまずファーストキャストに就いて、セカンド、サードとかに初めての人が勉強キャストとして入っていて、勉強キャストの人ができるようになったらチェンジする感じですね。ロングラン作品なのでひとりでずっとやるのも大変ですし、長くやれば良いってもんじゃないんですよね。どうしても摩耗してしまいますし、休憩も大事です。」

ーかなりの人数の俳優さんたちが在団されていると思うのですが、その中で舞台に立っている人の割合はどのくらいになるんですか。

「みんな何かしらには配属されますね。どの作品にも出ない時期というのはないです。研究生なら研究生を卒業したら何かしらの作品に配属されて、その稽古期間は稽古に参加して、本番が明けたらまたレッスンに戻ってキャストチェンジまで待つ感じですね。本当に何の作品にも配属されてないという人は研究生以外いないと思います。東京だけじゃなくて地方でもやっているので、全員が何かに配属されないと絶対に間に合わないですね。」

ー研究生の期間はどのくらいあるんですか?

「研究生は1年ですね。1年経ったらちゃんと卒業できるかみたいなテストがあります。私は2009年に入団したと書いてるんですけど、実際は2008年の10月にオーディションを受けて11月から入ってたんですよ。それで11月から3月くらいまでレッスンを受けていて、浅利先生がその子たちを作品に使おうとなって。『エルコスの祈り』というファミリーミュージカルに入って、そのまま本番を踏むようになっちゃったので、実質全然1年間レッスンしてないという(笑)。たぶん今は研究生はちゃんと1年間レッスンすることになっていると思うんですが。」

ーその研究生のレッスンというのはカリキュラムが決まっているんですか?

「そうですね。まず朝早く来て、最初にミーティングがあって、館内の掃除を研究生がしてました。10時からは研究生だけじゃなくて在団している人はみんなレッスンがあって、バレエやジャズ、ヨガとかあったりするんですけど、それが1時間半ですね。そのあと呼吸法という呼吸や開口訓練をするレッスンが30分間あって、お昼を食べて、研究生はその後も午後のレッスンが1時間半ありました。午後のレッスンもタップダンスだったり地唄舞というものだったり、いろいろなレッスンがありましたね。」

ー四季はアルバイト禁止と聞きました。

「そうです、禁止なんですよ。研究生はお金は入らないですけど、その分レッスン料とかは取られないですし、外で練習するとどうしてもお金を払って個室を借りるけどそういうのも一切取られないから、その分集中できる環境が用意されているという感じでした。」

ーたしかに普通は受けられないようなレッスンを受けられるわけですもんね。四季には独特の表現がある、四季スタイルが確立されているという話をよく聞きますが、当時それは感じていましたか?

「有名なのは開口訓練といって、めちゃくちゃ口を開けてセリフを一音も落とさないようにする練習なんですけど、『一音落とす者は去れ』と書かれた紙が壁に貼ってあって…。一音たりとも歌もセリフも落とすなという、浅利先生がいたときにはもうロボットなんじゃないかというくらいの訓練をしていて、そこから特徴的と書かれるようになったのかもしれないですね。」

ーアドリブとかは一切ないんですか?

「一切ないですね、四季は。むしろやっちゃだめですね。台本通り楽譜通りにやります。というのも、東宝とか宝塚とかは本人を売り出すところがあると思うんですけど、四季は作品を売り出しているので。それが良いところで、本当に無名の新人がいきなり主役張ったりもしますしね。中には看板俳優さん、もう退団されましたが、濱田めぐみさんや石丸幹二さんなど有名な方もいらっしゃいますけどね。それでもやっぱり俳優のスター性で観客を呼んでいるわけではなく作品で呼んでいるので、四季は作品ファーストなんですよね。」

やりたかった作品のやってみたい役で出られたのが嬉しかった

ー当時楽しかったことややっていてよかったと感じるような瞬間はありましたか?

「やっぱりみんな言いますけど、本番は楽しいですし、最後全部終わってお客さんが拍手をくれるとき『やってて良かったな』って思いますよね。あとはファンの方が手紙をくださったりするのも嬉しかったです。」

ー一番思い出深い役は何ですか?

「うーん、全部思い入れはあるんですけど、一つは『マンマ・ミーア!』という作品ですね。これは私が入る前から観ていたすごく好きな作品で、出たいなと思っていたので。アリという、主人公ソフィの友達の役だったんですけど、アリは本当にやってみたかった役で、やりたかった作品のやってみたい役で出られたのは嬉しかったです。あとは『美女と野獣』は役ではなくアンサンブルなんですけど、一番長く出た作品で、学びも多かったですし、やはりディズニーの人気の作品に出られたというのは大きかったですね。こんなに何回もやってるのにほぼずっと満席で、それだけ作品の力もあって、その分学びが多かった作品ですね。」

ーひとつの作品を一緒に作り上げることになると思うんですが、俳優さん同士でプライベートの交流はあるんですか?

「ありますよ。同じ作品になると仲も良くなりますし、みんなでご飯行ったりとかもありました。劇団内でバチバチしてるとかは全然ないですね。ひとつの作品を一緒に作り上げるのが劇団の良いところだし、普通はひとつ作品が終わると解散となるじゃないですか。でも劇団だとずっと同じところに所属していますし、他の作品にも行けば行くほど仲間が増えていく感じがして嬉しいですよね。」

ー一緒に地方を回ることも多いですよね?

「そうですね。小学生を無料招待して劇を鑑賞させる『心の劇場』というのを四季はやっていて、私が最初に出た『エルコスの祈り』というファミリーミュージカルがそれだったんですね。北は北海道の利尻島、南は沖縄の石垣島とか宮古島とかで、全国各地の市民会館でやったのは楽しかったですね。同期も多かったですし。地方公演のときは休演日にレンタカーを借りてみんなでどこか遊びに行ったりもしました(笑)。」

ー青春ですね!浅利さんたちは文化が東京へ一極集中しているのを是正したくて全国を巡回する劇団を作りたかったと聞きました。先程お話があった子どもたちへの活動も大事にされているんですよね?

「そうなんですよ。『心の劇場』は本当に大事にしていますね。それと小学生にきれいな日本語を教えるという『美しい日本語の話し方教室』というのもやっています。JAM音楽教室の前の両国小学校でもやっていると思いますよ。先生でたまに四季のファンの方がいらっしゃったりしてそれも楽しかったですね。」

私はそれしかやっていなかった青春だった

ー礒辺さんが宝塚を目指されたのはいつ頃なんですか?

「最初は小学生の頃にお母さんが持っていたビデオを観てハマって、中1くらいから入りたいと思うようになりました。中2から宝塚の受験スクールに行き始めましたね。中2から中3で通っていたところがあって、高1からは場所を変えて別のスクールに通っていました。宝塚は4年間しかチャンスがないので本当に狭き門でした。」

ー受験スクールではボーカルだけでなく他の試験に必要なことも習うんですか?

「そうですね。宝塚の試験はバレエと歌と面接があって、私が受けたときは一次試験からバレエと歌、面接があって、二次試験はその3つをもう少し長く見られて、最終試験で一対審査員の面接があって、という感じでした。今はもう一次試験は面接だけみたいで、面接で合格した人が二次試験で実力を見られるという流れだそうです。」

ー四季のための勉強は特にしてなかったとおっしゃっていましたが、中学生の頃からそれだけのことをずっと勉強していたんですね。試験のために勉強しなくても、実力を磨いておけばどこに行くにしても可能性は広がりますよね。

「私は本当に恵まれていたというのもあるんですけど、本当にそれしかやっていなかった青春だったので。学校の部活とかもやってなかったですし、習い事が部活みたいな感じでやってました。本当に習わせてくれた親には感謝ですね。だから、これから四季や宝塚を目指したい若い子たちは、もし親御さんが賛成してくださるなら、やっぱり歌やダンスを習っておくと良いとは思いますね。私が通っていた受験スクールでいえば、根性が鍛えられるみたいなところがあったので、どんな業界に行くにしても動じずにいられると思いますね。」

ー教室でレッスンを受けるメリットはそういうところにもありますよね。

「歌は今ネットやYouTubeでもいろいろなコンテンツがあるから独学でもできるような気がするかと思うんですけど、やはりどうしても上手くできないところが出てくると思うので、そのときにレッスンを受けていた方が悩みも解決しやすいと思います。変な癖もつきづらい。もちろん独学で有名になられた方もいっぱいいらっしゃるんですけど、できれば習った方が良いと思いますね。

それこそ今はオンラインレッスンとかもありますし、ちょっと気になる人とかはそれでも良いと思います。でも歌はやっぱり生のものなので、対面が一番だなって個人的には思いますね。本当に声はみんな違うので、実際に聴いてこういう癖があるなとか、こういう声なんだなというのを講師がわかった上で的確にアドバスしてあげることが大事です。できれば直接習ったほうが掴めるものが多いだろうなとは思いますね。」

ーなるほど。近くに教室があるなら受けてみてほしいですね。習い始める時期はやはり早い方が良いんですか?

「歌の場合は子供の声から大人の声に変わっていくので、もし目標があるなら中学生くらいからは習い始めたら良いんじゃないかなとは思いますね。私も今でも現役のときにお世話になっていた先生に習いに行くんですけど、やっぱり習うと自分の癖とか発見があるので、本当に一生勉強の世界だなと思いますね。これで満足というところがないので、どんどん探求していくことが苦じゃない人がこの業界に入っていくのかなと感じますね。」

輝くものを見つけてもらうためには自信をつけるしかない

ー入るのはきっと大変だけど、JAMからも劇団四季とか宝塚とか入る子が出ると良いですよね。

「本当にそうですね。大変じゃないと言ったら嘘になりますけどね(笑)。入ったらすごい人だらけなので、四季に入ってからはこれまでの自信がすべてへし折られることがざらにありました。折れても良いから這い上がってくるみたいな、地道に努力していける人が生き残れるんだろうなって思います。」

ー最後に、これから音楽や演劇の世界を目指す子たちにやっておいてほしいことや伝えたいことはありますか?

「とにかく、本当に入りたいんだったら入るために必要なことをがむしゃらにやることだと思いますねやっぱりやってきている人が普通で、自信がなくても通る世界じゃないと思うので。私が一番みたいに思って受けにくる人がいっぱいいるので、その中で輝くものを見つけてもらうためには自信をつけるしかないです。そのためには結局ひたすら練習するしかないんですよね。
あとは、四季を目指したいなら四季だけ、宝塚なら宝塚だけを観るとかではなく、ミュージカル以外にもいろいろな舞台を観に行ったり、映画を観たり、音楽を聴いたりして自身の感性を高めてほしいです。」

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